微笑みすることができ、平和で、幸せであること ティク・ナット・ハン
2020. 9.11
微笑みすることができ、平和で、幸せであること ティク・ナット・ハン
人生は苦しみに満ちています。しかし、人生にはまた、青い空、太陽の光、赤ん坊の目といった、素晴らしいことがいっぱいあります。苦しむだけでは充分ではありません。
苦しむばかりでなく、人生におけるさまざまな素晴らしいことと、つながりをもつべきです。素晴らしいことは、私たちの内にあり、まわりのどこにも、いつでもあります。
みずからが幸せで平和でないならば、愛する人たちや、同じ屋根の下に住む人たちとさえ、平和と幸せを分かちあうことができません。平和で幸せであるならば、私たちは微笑し、花のように咲きひらくことができます。家族全員、社会全体が、私たちの平和の恩恵を受けます。
青い空の美しさを楽しむために、特別の努力をする必要があるでしょうか。楽しむ練習をする必要があるでしょうか。いいえ、ただそれを楽しむだけです。
人生の一秒一秒、一分一分について、このことが言えます。いつ、どこにいても、太陽の光、お互いにいっしょにいること、呼吸することの生命感を楽しむ能力を、私たちはそなえています。
青い空を楽しむために中国に行く必要はありません。呼吸を楽しむために、未来に向かって旅する必要はありません。いま、ただちに、青い空、呼吸と、つながりをもつことができるのです。もし、私たちが苦しみだけを知っているとすれば、それは哀れなことです。(中略)
瞑想は、みずからの体、感情、心、さらには世界で、何が起こっているかを、はっきりと知ることです。
毎日、四万人の子供たちが、飢餓で死んでいます。超大国が、今や五万万発以上の核弾頭をそなえています。これは、私たちの惑星を何度も破壊するに足るほどのものです。
一方では、日の出は美しく、今朝、壁際に咲き開いたバラの花は、奇跡そのものです。人生は、とても嫌なものであるとともに、素晴らしいものです。
瞑想を行うということは、この両面とかかわることです。どうか、瞑想が、もったいぶったものだと考えないでください。実際は、うまく瞑想するためには、たくさんの微笑みをしなければならないのです。(中略)
子供が微笑するかどうか、おとなが微笑みするかどうかということは、とても重要なことです。日常生活において、微笑みすることができ、平和で、幸せであることができるなら、私たちばかりでなく、皆がそれからよい影響をうけます。これが、もっとも基本的な平和の仕事です。(中略)
そこで、もしテクニックについて述べるとすれば、それは、私たちが、現在の瞬間を生きることです。今ここにいることをはっきりと知ることです。生きることのできる唯一の瞬間が、現在の瞬間でしかないことを、はっきりと知ることです。
「素晴らしい瞬間を楽しむことが、私たちの、もっとも重要なつとめです。(中略)
今の社会で、瞑想を行うことは、とても難しいことです。すべての物事が、私たちを真の自己から引き離すために、共に働いています。ビデオとか、音楽とか、何千もの物が、私たちを真の自己から引き離す働きをしています。
瞑想を行うということは、はっきりとした心をもち、微笑みをし、呼吸を行うことです。
これは、自己から引き離されることとは、反対のことです。自分の内外で起こっていることを知るために、みずからに帰るのです。それは、瞑想することが、起こっていることをはっきり知ることだからです。今、起こっていることこそ、重要なことです。
(『ビーイング・ピース』ティク・ナット・ハン著
第1章 苦しむだけでは充分ではない より)
◇ティク・ナット・ハン (Thich Nhat Hanh)
釈一行。1926年、ベトナム中部生まれ。
禅僧、平和・人権運動家、学者、詩人。世界的に知られた精神的指導者であり、その卓越した教えは全世界に影響を与えている。マインドフルネスの実践についての著作多数。多くがベストセラーになり、世界中の読者に広く読まれている。ニューヨーク・タイムズでは、ダライ・ラマに次ぐ西洋に大きな影響を与えている仏教界のリーダーと評されている。
「行動する仏教(エンゲージド・ブッディズム)」を提唱し、1966年にはワシントンDCでベトナム戦争終結の和平提案を行うが、戦闘中止を訴えたため、反逆者と見なされて帰国不能になる。以後40年、フランスで亡命生活を送る。マーチン・ルーサー・キングJr.牧師の推薦により、1967年度のノーベル平和賞の候補となる。1973年のパリ平和会議ではベトナム仏教徒主席代表を務めた。1982年、南フランスにプラムヴィレッジ・瞑想センターを設立(Plum Village Practice Center)。
社会的活動を継続するとともに、その教えに惹かれて集まる多くの人々への瞑想指導を始める。彼の精神的指導のもと、プラムヴィレッジは小規模な地方の農場から、西洋で最も大きく活動的な仏教僧院へと成長した。当地には200人を超える僧・尼僧が居住し、毎年世界各地から訪問者を多数受け入れている。現在も世界中で「応用仏教」の瞑想リトリートをリードし続けている。現在は書籍にとどまらず、多くのリトリートや法話の実況が、CDやDVDなどの媒体をはじめインターネットで広く配信されている
『私と世界を幸福で満たす食べ方・生き方 仏教とハーバード大学が勧めるマインドフルネス』より
和尚からの蛇足
先週の「禅僧 藤田一照さんとの対談」で取り上げたティク・ナット・ハン師の著作『ビーイング・ピース』の第1章から抜粋〔ばっすい〕しました。
「人生は苦しみに満ちて」いるが「素晴らしいことがいっぱいあります」という言葉に救われる思いがする。生きていくことに困難はつきものである、そんなときに「みずからが幸せで平和」であれというメッセージは沙漠でオアシスにたどり着くような救いの温もりを感じさせる。
「いま、ただちに、青い空、呼吸と、つながりをもつこと」の大切さを伝え、「瞑想を行うことは、はっきりとした心をもち、微笑みをし、呼吸を行うことである」と言っている。
さらに「生きることのできる唯一の瞬間が、現在の瞬間でしかないことを、はっきりと知ること」といい、禅の大事な教えを説いている。
ティク・ナット・ハン師から学ぶことは多くあるのである。