1%の戦略 鎌田實

2020. 1.10

 短篇の名手O・ヘンリーの作品が大好きです。
O・ヘンリー自身は銀行に勤め
ている時に横領〔おうりょう〕の疑いで起訴され、
途中で逃亡。けっこうアブナイ人です。
だから魅力的なのです。妻の危篤を聞きつけて家に
戻りました。保釈金を積んで妻の看病をしました。
妻が亡くなった後、有罪判決を受けて刑務所に入りました。

 ヘンリーが本当は悪人かどうかなんてわかりません。
きっと悪い所もあれば、いい所もある。ただ、それだけ。
 その刑務所で小説を書きだしたというから、
人生何が幸いするかわかりません。
つまずきが新しい人生を生んだのです。

 O・ヘンリーの「最後の一葉〔ひとは〕」という作品が大好き。
死を前にした病人が自分の部屋の窓から見える木の葉を数える。
一枚、また一枚と、葉は木枯らしの中に落ちていきます。

 あの葉が全部落ちた時、自分の命も消えると病人は思い込んでしまいます。
ところが、一枚だけ不思議に葉が残るのです。
今日落ちるだろう、今日落ちるだろうと、病人は自分の窓から一枚の葉を見ます。
 でも、どんなに大風が吹いても葉は残り続けたのです。
そして彼女の病気は峠を越し、回復しました。
嵐の日、なぜ最後に残った一枚の葉が落ちなかったか。
 同じ安アパートに入っていた老人の画家が、肺炎を起こし死にそうな
彼女のために、嵐の中、壁に一枚の葉っぱの絵を描いたのです。

 最後の一葉は本物ではありませんでした。にせ物でも希望そのものだったので
す。
 人間は苦難の中で生きる時、必ず希望が必要になります。夢や希望はナチュラ
ルキラー細胞という免疫力をアップさせることがわかってきました。体と心はつ
ながっているからです。
 最後の一葉は本物の葉っぱではありませんでした。それでもひとりの死にかけ
た病人の命を救いました。優しい嘘〔うそ〕でもいいのです。

 最後の一葉を描いた老画家は、いつか傑作を描きたいと
夢を持ち続けていました。
老画家は世界が認めるような傑作を描けませんでしたが、
壊れかかった煉瓦の壁にひとりの命を救う傑作を描いたのです。
 嵐の中で最後の一葉を描いた後、老画家はそのために肺炎になり、
2日後に亡くなりました。自己犠牲の物語が隠されていました。

 100%誰かのために生きるって素晴らしいことです。素敵なことです。
 はじめはほんの少しのつもりで、亡くなりそうな患者さんを
助けたいと思い老画家が立ち上がりました。
その老画家はおそらく軽い気持ちだったのだと思います。
しかし、嵐の中で絵を描き始めている時、これはどうしても完成
しなければいけない、と強く思ったのでしょう。
D・ソローの言うように、彼は本気になったのです。
本気になるって素敵なことです。最後の一葉を描き上げた
人間がいるというのは、同じ人間として誇りに思います。

 「この日本を今一度洗濯したい」と新しい日本をつくる
ことに夢を持って走り続けた坂本龍馬が1%理論を述べています。
奇策とは100に1つも用いるべきではない。99まで正攻法で押し、
あとの1つで奇策を用いれば、見事に効く」と言っています。
99対1だから、意外性があったり、意表をつくカタチになるのだと思います。
「たった1%」なのに、1%には力があるのです。

 何でも1つから始めればいいのです。
「たった1%」だからこそ、意表をついたり意外性があったりして、
そこから次々におもしろいことが起きるのです。
1%って、うまくできているような気がします。

 人生を終える時、残るものは、自分が集めたお金や物ではありません。
自分がどれだけ誰かのために何かをしたかです。
これが、生きるためにとても大切なことなのです。
「がんばらない」と言いながら、がんばってきました。

『1%の力』鎌田實〔かまた・みのる〕著より

鎌田實
一九四八年東京都生まれ
東京医科歯科大学医学部卒業。七四年、長野県の諏訪中央病院に赴任。
一貫して「健康づくり運動」「住民とともに作る医療」を実践。
一九九一年より二十三年間、ベラルーシ共和国の放射能汚染地帯へ百回の
医師団を派遣し約十四億円の医薬品を支援二〇〇四年にはイラク支援を開始し、
イラクの四つの小児病院へ薬を送り難民キャンプでの診察を実施している。
現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)理事長、
日本・イラク・メベラカルネット(JIM-NET)代表、東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部非常勤教授。
『がんばらない』(集英社文庫)、『大・大往生』(小学館)、
『こわせない壁はない』(講談社)、『○に近い△を生きる』(ポプラ新書)など
ベストセラー多数。

和尚からの蛇足

 引用の部分は『1%の力』の最後の章です。
O・ヘンリーの「最後の一葉」という作品を紹介しています。

 老画家が本物の葉っぱでない最後の一葉を描くことによって
一人の病人の命を救ったのでした。
【1%の力】には底知れない大きな働きがあるのです。
わずかなものだからと等閑〔なおざり〕にすることなく、
地道〔じみち〕に思いを込めていく。
色んな困難にもたじろがずに一途に行〔おこな〕っていくこと。

 結局、最後に残るのは、「自分がどれだけ誰かのために何かを
したかです」という言葉の深さを学びました。
これはすべての人に問いかけられていることでもあるでしょう。

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