説話【ラーフラさん】
2019. 8. 1
(前四〇〇年前後)
お釈迦さまが出家される直前に生まれた一人息子の、ラーフラさんは九歳のころ、城を出て見習い僧になりました
教育担当の僧もつけられていましたが、悪戯好きの子供だったようです
訪れた信者に、「お釈迦さまは今どこに居られますか」と聞かれると、霊鷲山〔りょうじゅせん〕におられる時は竹林精舎に行かれたとか、竹林精舎におられる時は霊鷲山に行かれたとかいって、うろうろさせ喜んだりすることもあったようです。
このことを聞かれたお釈迦さまはラーフラさんの宿舎にやって来ました。ラーフラさんの差し出した桶の水で足を洗ったお釈迦さまは、
「ラーフラよ、この水は飲めるかな」
「汚れています。とても飲めません」
「ラーフラよ、お前は折角、奇麗な赤ん坊で生まれて来たのに、それを磨く修行を忘れ、口も守らず、心も清めないから、この水と同じように汚れきっているぞ」
お釈迦さまは桶の水を捨てさせて、
「ラーフラよ、お前はこの桶に食物を入れて食べる気になれるかな」
「汚れた足を洗う桶です。とてもその気にはなれません」
「ラーフラよ、お前はこの桶と一緒だ。口に誠がなく、修行する気もないなら、人のためになる奇麗な心が入れられる訳がない」
と、いいながらお釈迦さまは桶を蹴飛ばしました。桶はコロコロと門の方へ転がって行きました。
「桶が壊れるかと、気にしたか」
「いいえ、安物ですから気にしません」
「行を励まず、人をだまして喜んでばかりいるお前は、やがて、この桶のように人から気にされず、惜しまれず、悟りも開けずにコロコロと迷いながら命が終わってしまうぞ」
ラーフラさんは、あぶら汗をかきながら精進の決心をしたそうです。
『花園』平成22年2月号 文・なみ からし より
和尚の蛇足
ラーフラというのは障りという意味ということですが、出家の障りになるものが生まれた、と思わずおっしゃったのでしょうか。これを報告に来た家来が勘違いをして、ラーフラという名前をつけられたと思い、実家へ知らせました。そこからラーフラ(羅喉羅)という名前が出たと伝えられているのです。信じられないような話です。
釈迦十大弟子の一人として、「密行第一」と称せられています。綿密に怠ることなく精進し、解脱したためにそのように讃えられたラーフラがまだ出家したばかりの頃はこのようであったとは驚きです。それもお釈迦さまのこの話に出てくるような導きによっておそらく血のにじむような精進を積まれたことを思うと、教えの尊さに自然と頭が下がります。
(初掲載2016年 7月27日)