説話【ウパーリさん】

2019. 8. 1

(前四○○頃)

 お釈迦様の時代、釈迦国には王家の親族のお城がいくつかあったようです。したがってお釈迦様には国内各地に親戚の王子様が大勢いました。お釈迦様の名声が広がるにつれ、親族の中からも次々と出家者が出ました。
 ある日、従兄弟で、後の釈迦十大弟子の一人、アヌルッダ尊者となる王子が、五人の従兄弟を誘って出家することになりました。
 お城専属の散髪屋、ウパーリさんが六人のお供としてつけられました。
 「供はここまでで良い。これはあげるから、お帰りなさい」
 郊外に出たところで、六人は身につけていたきらびやかな服や手持ちの宝石、お金をウパーリに渡し、ボロ布一枚をまとって、森の方に向かいました。
 お供が、主人の行き先を見届けず、まして衣服宝石まで貰いましたと、お城に帰れば大変な罪となってしまうかも知れない。もともと、出家したかったウパーリさんは、とっさに衣服をその場において、以前に通ったことのある近道を走って、精舎に向かいました。
 「お釈迦様、どうか私を弟子にして下さい」
 以前からウパーリさんの素質を見込んでいたお釈迦様は即座に戒を授けられました。やがて、王子たちも到着して、出家を許されました。
 「弟子たちよ、教団では過去の身分や経歴は一切問わない。ただ一つ、寸秒でも早く出家したものに対して、後の者は礼を尽くさねばならないと云う規則がある。ウパーリはお城の使用人ではあったが、今はお前たちの先輩である。ウパーリに礼拝をしなさい」
 わずかの差で新弟子となった六人は素直に、ウパーリに恭しく三拝をしました。過去の身分や年齢を問わず、区別をするのは入門の早い遅いのみと云う律は、現在の禅道場でも、脈々と守られています。
 散髪屋のウパーリさんは後に規則の第一人者となり、教団維持に大きな力を発揮、持律第一と呼ばれる大尊者となりました。

ウパーリの説話

 

和尚からの蛇足

 なんと仏教の考え方の合理性・平等さを示していることでしょう。王子に仕えていた供の者が先に弟子入りしたがために、王子達はさっきまで自分たちの供であった者を先輩として彼に拝をしなければならず、それについて不平を言うこともないということが信じられますか。

 他の組織でそういうことが行われている所があるとは聞いたことがありません。これは同時に仏教の寛容さと自由を表しているのではないでしょうか。仏教は解脱を得ること(覚性を開発〔かいほつ〕する)を説いています。そのためには障礙となることは全て退けて精進するわけです。

(初掲載2016年9月8日)

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